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千里ちゃんは、子供の頃から母親の顔色を伺うようなことがよくあった。
フルタイムで働いていた母親は子供を実家に預け、保育園の送り迎えも
全て祖父母まかせだった。

仕事に没頭できる環境だったせいもあり、順調に昇進、年収は夫をはるに上回る。

夫は仕事はするものの、車を買いたいなどと妻にねだるようになった。
そんな夫に嫌気がさし、将来は離婚すると決めているが、子供が小さいうちは
子供のために離婚しないでおこうと誓った。

いわゆる家庭内別居。食事も夫だけ別。

姑が訪ねてきても孫はいませんと平気で嘘をつき会わせない。
それほどまでに冷え込んだ夫婦関係を続けているところが恐ろしい。

できるだけ関わらずに生きていこうと考えていたが敷地内同居の環境では
どうしても顔を合わせる機会がある。ほぼ毎日だ。
顔も見たくない相手というのがこの世に存在するのものだと改めて気付いた。

子供は二人とも頭が良く学習塾へ通った成果もあり地元トップクラスの
高校へ進学した。母親は当然鼻高々だった。
しかし、娘は突然登校拒否になった。朝起きられない。起きてもすぐ寝る。

中学生までは学校で1番の成績を誇っていた彼女も高校ではその成績を
維持できなかった。そんな人はたくさんいるし、中学で1番だった人間が
集まる高校だから、よほど勉強しないとついていけない。

振り返ってみれば小学生の頃から勉強一筋で友達も少なく遊ぶこともなく
ただひたすら塾で勉強する毎日だった。それは母親の敷いたレールだった。
自分がただ母親のいいなりにいい子を演じていたことに気付いた千里は
徹底的に反抗するようになった。

母親とは口もきかない

何でも押し付けてきた。自由がなかった。せめて学校くらい自由に休ませて。
それは本当に自由というものではなかったけど、ただ反抗したかった。

家で一番権力のある母親に誰も逆らえずただ言う通りにしてきた。
気が強いし怒ると怒鳴り散らす。自分が大人しく言いなりになるしかなかった。
しかし、はたから見れば千里もまたものすごく気が強いという印象で
とても毒親に育てられたとは思えない。

一見エリートでお金もあって、まあいえば勝ち組。
平均よりはいいよねって家庭かもしれない。
でも母親の強烈な毒は子供達を蝕んでいた。

頭がいいというよりは運動が苦手だしほかに取りえもないから
成績だけが目立っていたのかもしれない。この程度の成績だったら別に
自慢するほどでもなかったのだ。中学は公立の平凡な学校。
ちょっとレベルが低い中でいい気になっていただけかもしれない。

家を建てたときもお金を出したのは母親で父親はローンも組まなかった。
生活費も渡さなくなりほとんど母子家庭状態。
子供の誕生日も父親だけ別行動。プレゼントは弟だけにあげていた。
完全な嫌がらせ。本当の父娘なのに信じられない。

実際、誕生日なんてとっくの昔に忘れていた。もうこれでいいやとあきらめた。
学校に行っても楽しくないし先生に目をつけられてもう人生終わりだ。
別に死にたいとまでは思わない。もうどうでもいいかんじ。
早く時が過ぎてこのまま年をとっていけばそれでいい。何もしたくないから。

将来の夢といわれたも何もなかった。母が毒親で命令しかしない。
おばあちゃんは優しかったけど。継母だったから本気で接していなかっただけかも。
複雑な家庭環境と言われればそれまでだけど、とっとと離婚したほうが幸せだと思う。

経済的にはむしろ助かるくらい稼いでいるし家事も手伝わない旦那なんか
いらないのでは?世間体を気にしているのかもしれないけどね、田舎だから。
自分の人生で悔いが残らないようにしたいものだよね。

多分もっと好きな人だったら家事も真面目にやるんだろうな。
結局家事は完全なる奉仕活動でボランティアだからモチベーションがないと続かない。
やってらんない。せめて自分の部屋だけでもきれいにしておこう。
それは自分のためだから。模様替えと断捨離。

いらないものが多すぎて身動きできないまでになってしまった。
この競争社会では一度脱落したら惨めだ。決して這い上がれないようにできている。
そのほうが都合がいい人が多いのだろう。

たまにはゆっくり休みたい。安心して眠りたいという当たり前のことが出来なかった。
学校を休んで朝から近所のスーパーに行ったら年寄りばかりで驚いた。
開店前に列を作って待っているなんて知らなかった。少しだけウォーキングになったかな?

一日中家にいるのも疲れるもので今度は精神的に参ってしまうようになった。
せめて図書館にでも行きたいのだが遠すぎる。バスも本数が少なすぎて不便だ。
学校も遠くなって朝早く出ないといけなくなって、そんなささいなことが原因かもしれない。

頑張らなきゃというエネルギーがなくなってしまった。高校受験で燃え尽きてしまったのか。
何が辛いのか自分でもよく分からないものだから説明もできない。
母親はただ「とにかく学校に行け」というだけだった。逆らえない?

皆に心配をかけながら自分がこれほどまでにダメな人間だったとはと後悔する毎日。
何に対する後悔なのかももう分からない。ただ付しろを振り返りもっと別の人生があったはずと
悔いるだけ。無意味。そしてこのまま毎日ぼーっと過ごすだけでどうしていいのか分からない。

高校生といえば人生で一番輝いていて楽しい時期じゃないのかね?
もったいないなぁ。趣味もなくて暇ってそれじゃあお年寄りの方がまだマシだよ。
いくつになっても生きがいがあってコミュニティーに参加できるって幸せだよね。

煩わしいこともあるけど人と人とのつながりがないと生きていても楽しくないんだろう。
精神安定剤を飲むにはまだ早すぎる。心療内科に行く前に日々の生活を見直そう。